利用規約をコピペすると危険?スモールビジネスが陥りがちな5つのリスク
- REIKO TOYOSHIMA
- 7月31日
- 読了時間: 9分
「同じようなサービスの利用規約をコピペして、自社の利用規約をとりあえず作成してみた」「ネットでひろったテンプレを使っている」―こんなケースはありませんか?特にスモールビジネスや個人事業主の方にとって、法律が関わる文書をゼロから用意するのはなかなか大変な作業。だからこそ、手軽な方法に頼りたくなる気持ちはよく分かります。
ですが、安易に「コピペ」や「テンプレ」に頼ることで、逆に法的リスクを抱えてしまうことがあるということは、意外と知られていません。見た目は整っていても、肝心の中身がズレていれば、トラブルが起きたときに「規約があるのに守られていない」「規約が役に立たない」という事態に発展する可能性もあります。
この記事では、「他社の利用規約をコピペして使う」ことに焦点を当て、その5つのリスクについて、分かりやすくお伝えしていきます。
リスクその1:自社のサービスと利用規約の内容が合っていない
まず最初に押さえておきたいのが、「他社の規約がそのまま自社に使えるわけではない」という点です。利用規約というものは、法律に基づきつつも、事業者が自社のサービス内容や取引形態、お客様対応方針に応じてある程度自由にカスタマイズすることが可能です。
つまり、自分の商品やサービスの実態に合わせて条項を考えていく必要があるため、他社の規約をそのままコピーしても、自社にとって適切な内容になっているとは考えにくいでしょう。
あなたのサービスは、世界でひとつなのですから。
たとえば、他社のネットショップの利用規約を参考に、自分のネットショップに必要そうだと思う部分を少し書き換えて、利用規約を作ったとします。その際、他社と自社のサービスの違いをうっかり見落としてしまうかもしれません。
たとえば、コピペ元の規約には、決済方法について、代金引換が含まれていたとします。しかし、自社では代金引換を導入する予定がないのに、代金引換に対応できることを条項に含めてしまった場合、高い手数料を払って代金引換に対応せざるを得なくなるケースが出てきます。
このように、うっかりコピペ元の内容をよく確認しないで使ってしまうと、現実の運用と規約の内容にギャップが生じてしまい、結果として事業者が負う必要のなかった負担を負わなければなりません。利用規約とは違った対応をしてしまうと、お客様とのトラブルの原因にもなります。
利用規約はあくまで法律上の契約条項です。「どうせ誰も読まないから」とよく内容を理解しないまま作ってしまうと、自社サービスの運営の実態と一致しなくなり、かえってリスクを高めることになりかねません。
リスクその2:消費者契約法や特定商取引法などの法律に違反
次に問題となるのが、法律との整合性です。特に消費者契約法や特定商取引法に適合していない利用規約は、無効となる可能性があるばかりか、場合によっては行政指導や業務停止命令といった厳しい措置が取られることもあります。
たとえば、利用規約の中で「本サービスの利用によって生じた損害について、当社はいかなる責任も負いません」といった全責任の免除をうたう条項は、消費者契約法10条に基づき、無効と判断される可能性があります。このような免責条項を正しく設計するためには、法令の深い理解が求められます。単にネットで見つけた文言を流用するだけではとても危険。実際、インターネット上に掲載されているテンプレートの中には、不備があるまま公開されているものも多く、知らずにそれをコピーして使ってしまうと、法的効力がないばかりか、消費者に不利な内容として無効と判断される場合があります。消費者保護の観点から、事業者が一方的に不利な条件を押しつけるような条項は、たとえ利用規約に明記されていても、裁判等では効力を持たないのです。
また、利用規約のなかに「返品」に関するルールが記載されていたとします。原則として、お客様都合の返品には、対応する義務はありません。本来は返品の必要がないにもかかわらず、参考にした他社の規約にあわせて「返品可」と記載してしまった場合、不要な返品を受け付けざるを得なくなり、事業者側が本来負う必要のないコストやトラブルに巻き込まれてしまうこともあります。逆に、利用規約のなかに「返品不可」と書かれていても、法律上返品が認められる場合(例:初めから不良品だったことが証明できる場合など)には、その条項が無効とされることがあります。
このように、表面的には整った文章でも、法律の要件を満たしていなければ、事業者にとって大きなリスクになりかねません。
さらに、利用規約にお客様にとって著しく不利な内容や、誤解を招くような免責条項などが含まれていると、適格消費者団体からの差止請求訴訟を受ける可能性もあります。こうした訴訟は、社会的な注目を集めることも多く、同業他社や消費者からの信用を一気に失う要因になりかねません。また、SNSや口コミサイトなどで規約の内容が話題となり、炎上につながるケースも増えてきています。規約の記載ミスや不備がきっかけとなって、事業者の意図とは無関係に企業イメージが大きく損なわれてしまうリスクも見逃せません。
リスクその3:著作権侵害の可能性もある
ここでは少し視点を変えて、著作権について考えてみましょう。利用規約をコピペや丸パクリすると、著作権侵害になるのでしょうか?
原則としてそのままコピーしても著作権侵害にあたることは少ないとされています。著作権法上、保護の対象となるには「創作性」が必要であり、一般的な法律用語や形式的な契約文書には通常その創作性が認められにくいからです。
「サービスが違えば利用規約も違う」ことは、先ほど説明しましたが、利用規約は法律の文書だから、条文の多くは汎用的・定型的な内容で構成されていることもまた事実です。
しかしながら、特定の利用規約が独自の構成や表現、注釈、例示などを含んでいて、その文面全体に創作性が認められる場合には、著作物と見なされ、無断で流用した場合には著作権侵害として責任を問われるおそれがあります。
たとえば、東京地方裁判所平成26年7月30日の判決では、時計修理サービスを提供するA社が、自社ウェブサイトに掲載していた修理規約を、同業のB社が無断でコピーし、自社サイトに掲載したことが問題となりました。裁判所は、A社の修理規約が、「同一の事項を多面的な角度から繰り返し記述する(判決文より抜粋)」など、作成者の個性が表れており、全体として創作性が認められると判断しました。そのため、B社の行為は著作権侵害に該当するとされ、損害賠償(5万円)および利用の差し止めが命じられました。
実際には、一般的な利用規約をコピペするだけで、直ちに著作権侵害になるわけではありませんが、創作性があれば著作物と判断されるということです。
参考にするのは構いませんが、やはり自社オリジナルとして再構成し、表現も変更するなどの工夫をしたほうが安全でしょう。
リスクその4:「責任の範囲」が明確になっていない
利用規約においてもっとも重要な役割のひとつが、「責任の範囲」を明確にしておくことです。たとえば、提供したサービスに不具合があった場合に、事業者がどの範囲まで責任を負うのか、あるいは返金や再対応に応じるかどうかなどを事前に明示しておくことが求められます。
しかし、他社の規約をよく確認せずにそのままコピペしていたりすると、こうした重要な責任範囲の定義が抜け落ちていることがよくあります。
その結果、お客様からのクレームに対して、想定外の補償を求められたり、解釈の食い違いによって紛争に発展したりするリスクが高まります。
たとえば、オンライン講座を販売していた事業者が、通信環境や受講者の操作ミスに起因する視聴トラブルについて責任を負う義務はなかったにもかかわらず、その点を利用規約に明記していなかったために、受講料の返金を求められるというケースです。事前に「通信環境や端末環境に起因する不具合については責任を負いません」といった一文を記載していれば、防げたトラブルでした。
利用規約は、いざというときに自社を守るための指針であると同時に、お客様との信頼を保つ約束でもあります。責任の範囲が不明確なまま放置されていることは、法的にも実務的にも非常に危うい状態だといえるでしょう。
サービスに不具合があった場合、どこまで補償するのか。キャンセルや返金は、どのような条件で行うのか。データの損失があった場合、誰が責任を負うのか。これらの点について具体的な定めがなければ、トラブル発生時にお客様との信頼関係が損なわれるだけでなく、損害賠償を請求されるリスクも高まります。
規約は、万が一のときに自社を守るための「盾」であり「指針」です。責任の範囲を明確にしていない利用規約では、いざという時にあなたのサービスを守ってはくれません。
リスクその5:サービスの信頼性・専門性が疑われる
利用規約は、実はお客様にとって「そのサービスがどれだけ信頼できるか」を測る材料のひとつです。特に、一定の金額が動く取引や、定期的にサービスを利用する契約においては、利用規約の存在そのものが安心材料になります。
にもかかわらず、他社の文章をそのままコピペしたような痕跡があったり、不自然な言い回しが残っていたりすると、「この事業者、大丈夫かな?」と不安を与えてしまうことがあります。規約中に、うっかり他社のサービス内容が残っているケースなど、信頼を損なう決定打となってしまうこともあります。
スモールビジネスだからこそ、誠実な運営姿勢を感じさせるオリジナルの規約が、お客様との信頼構築に貢献します。
おわりに…
ネット上にたくさんある利用規約を、初めて利用規約を作る際の参考資料として活用するのはとても有効です。しかし、それらを“そのまま”掲載するのではなく、必ず自社の実態に合わせて変更し、必要に応じて専門家のチェックを受けることが重要です。
利用規約は単なる形式ではなく、事業者とお客様との間の契約そのものです。だからこそ、“コピペ”ではなく、“自社仕様”で作り上げましょう!
今回は、他社の規約をコピペして使うことのリスクを中心にご紹介しましたが、最近では「ChatGPTで規約を作ってみました」「AIに任せれば大丈夫」といった声もよく耳にします。
ですが、生成AIが作った文章も、注意しないと大きなトラブルにつながる可能性があります。次回は、「生成AIを使って利用規約を作成するときに注意すべきポイント」について、分かりやすく解説します。
