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ChatGPTで利用規約を作ると危険?AI生成文書にひそむ法的リスク

前回のブログでは、利用規約を他社のウェブサイトからコピペして作成することのリスクについて解説しました。でも最近では、コピペより生成AIを利用するケースが増えているかもしれません。


ChatGPTで利用規約を作ってみた」「AIにまかせてサクッと規約が完成した」といった声も耳にするようになりました。確かに、時間も手間もかけずに、それっぽい文章を一瞬で作成できるのは生成AIの大きな魅力です。特に、法律文書のように形式が定まっている文章は、AIと相性が良いようにも見えます。


しかし、生成された利用規約が「本当にそのサービスに合っているのか?」「法的に問題がないのか?」という視点を持たないまま使ってしまうと、思わぬ落とし穴にはまってしまう可能性があります。


この記事では、ChatGPT(生成AI)の仕組みを簡単に解説しながら、なぜ「生成AI任せ」の利用規約がリスクをはらむのかを分かりやすくご紹介します!



ChatGPTとは?LLMのしくみと注意点


ChatGPTは、OpenAI社が開発した「LLM(大規模言語モデル)」と呼ばれるAIのひとつです。LLMとは、インターネット上にある膨大なテキスト情報を読み込んで学習することで、文章のパターンや使われ方を理解し、人間が書いたような自然な文章を作ることができるAIです。


通常のやり取りでは、ChatGPTはインターネット上の既存文書をもとに「次にくる言葉は何か?」を予測して文章を作る仕組みとなっており、たとえるなら、たくさんの本や記事を読んで知識を身につけたAIが、「こんな質問には、たぶんこう答えるはず」と考えて答えてくれているようなものです。


そのため、見た目は整っていても、実際の内容が古かったり、間違っていたりすることもあります。とくに、法律のように正確性や最新性が重要な分野では、AIが出力した文章をそのまま使うことには注意が必要です。


さらに、ChatGPTを使って利用規約を作ることの問題点について、深掘りしてみましょう。


◆ 問題点その1:自分のビジネスの詳しい情報はAIには分からない


ChatGPTがいくら優れていても、事業者自身のビジネスの詳細な内容は、ChatGPTの中には存在しません。ChatGPTは、インターネット上に公開されている情報や学習データをもとに回答するだけなので、事業者自身が個別にどのようなサービスを提供しているかまでは把握できません。


通常、利用規約を作成するタイミングは、サービスをリリースする前となるので、ChatGPTはあなたのことはまだ知らないのです。ChatGPTは事業者のサービスの詳細だけでなく、将来想定されるリスクも把握できないため、「使えそうで危ない」利用規約を出力してしまう可能性が大いにあるのです。


その結果、自社サービスの提供方法や決済手段、キャンセルポリシー、営業時間、対象顧客などに即した条項は作成できません。たとえば、「対面販売なのにネット販売向けの表現が含まれている」「完全予約制なのに、即時キャンセル可能な文言になっている」など、サービス実態と規約にズレが生じるケースもあります。


利用規約とは、自社のビジネスモデルを法的に整理し、利用者との間でトラブルを防ぐためのものです。そのため、サービスの実態に応じたきめ細やかな設計が欠かせません。生成AIは、そこまで自動的に汲み取ってくれるわけではないのです。


◆ 問題点その2:最新の法改正が反映されない可能性


ChatGPTは、特定の時点までに収集された情報をもとに訓練されています。現在、ChatGPTにはリアルタイム検索機能(ChatGPT Search)も導入されつつありますが、すべての出力が常に最新情報に基づいているわけではありません。つまり、学習済みのデータ以降に行われた法改正や新しいガイドラインなどを反映せずに、古い情報を提示してしまう可能性があります。


利用規約には、サービスの内容に応じて、消費者契約法、電子契約法、特定商取引法、電気通信事業法、著作権法など、多数の法律が複雑に関与します(一部の業種に限られる法律もあるため、業態ごとに確認が必要です)。また、日本ではここ数年で個人情報保護法の改正、電気通信事業法の改正、ステルスマーケティング規制の導入などが相次いでいます。こうした新しい法制度に対応しないまま、古い情報をもとに作成された規約を使ってしまうと、知らずに無効条項や法令違反のリスクを抱える可能性があります。


AIが出力した文章は一見もっともらしく見えるため、「なんとなく正しそう」に思えてしまうのも落とし穴です。実際には、法的に無効な条項や、必要な記載が欠けていることも少なくありません。


◆ 問題点その3:細かな日本語のニュアンスに弱い


LLMの多くはアメリカの企業によって開発されており、英語を中心とした大量のデータをもとに訓練されています。そのため、ChatGPTも日本語対応はしているものの、英語と比べて日本語の文章を出力することに少し弱い傾向があります。このため、文脈や法的表現においては、日本語特有の微妙なニュアンスを誤るケースもあります。


特に法律の世界では、助詞ひとつ、言い回しひとつで、意味が大きく変わってしまうことがあります。たとえば、「〜するものとする」と「〜することができるものとする」では、前者は「義務(しないといけない)」を、後者は「権利(するかしないかは自由)」を意味し、契約当事者が負う責任や持つ権利に直接影響します。


また、「超える」と「以上」の違いも重要です。たとえば「金額が10万円を超える場合」と「金額が10万円以上の場合」では、「超える」は10万1円からを指しますが、「以上」は10万円ちょうども含まれます。「○○の前」と「○○以前」も混同されやすい表現ですが、「○○の前」は○○当日を含まず、「○○以前」は○○当日を含むという違いがあります。


これらのわずかな違いが、契約の解釈や責任範囲に大きな影響を与えることもあるため、慎重な言葉選びが必要です。


こうした表現の違いに注意を払わず、「AIが作ったから大丈夫」と思ってそのまま掲載してしまうと、トラブルになったときに「規約の解釈があいまいだ」「説明と、利用規約に書いてあることが違う」といった指摘を受けかねません。


AIは契約書作成に強い?それでも利用規約には限界がある理由


ChatGPTは、「定型的な契約書」を作るのは比較的得意で、たとえば、簡易な秘密保持契約書、短期間で成果物が明確な業務委託契約などの作成に向いています。これらは法律で必要な項目がある程度決まっており、テンプレートに近い構成でも問題が起こりにくいためです。内容が単純で、法的リスクが比較的小さい契約であれば、AI支援も有効でしょう。


しかし、利用規約は違います。利用規約は、提供するサービスの内容・形態・対象者などに応じて、必要となる条項が大きく変わります(たとえば、課金の有無、未成年ユーザー、ユーザー生成コンテンツの扱いなど)。つまり、ゼロベースで設計する必要がある“半オーダーメイド”の文書です。


そのため、いくらChatGPTが形式的な文書を作れても、何を聞き出せばよいか(=プロンプト)を事業者側がちゃんと把握していないと、肝心なことが抜けた中身になってしまいます。


たとえば「キャンセルポリシーについて具体的に書いてください」とAIに頼むには、「自分の業界ではキャンセル期間はどのくらいが適法なのか?」「キャンセル手数料はとるべきか?」「返金はどう処理するべきか?」といった自社の方針を自分で考えて整理しておく必要があります。


つまり、AIに頼るには、ある程度の法的リテラシーと、プロンプト設計の技術が必要になるのです。誰でも簡単に、正しく、完全な利用規約が作れるわけではありません。


将来に期待しつつ、現時点では専門家のサポートを


生成AIの技術は日々進化しており、将来的にはもっと精度が高く、法的に問題のない文書が生成できるようになるかもしれません。実際に、契約書作成支援やリーガルチェックを補助するAIサービスも登場しており、今後の可能性には大いに期待が持てます。


しかし、現時点では「ChatGPTで作ったから大丈夫」と完全に信頼するのは早計です。特に、スモールビジネスや個人事業主にとって、利用規約は自社を守るための重要な法的インフラ。ChatGPTを上手に活用することは大切ですが、それだけに頼るのではなく、専門家によるチェックやアドバイスを取り入れることが、今はまだ必要だと言えるでしょう。


あなたのサービスにぴったり合った規約を整備することが、安心してビジネスを運営する第一歩となります。利用規約の作成に不安がある方は、ぜひ一度、行政書士や弁護士などの専門家に相談してみてください!


 


この記事のまとめ

  • ChatGPTはあなたのビジネスの実情を知らないため、サービス内容に合わない利用規約が生成されるリスクがある。

  • 最新の法改正を出力せず、法的に誤った記載が出力される可能性がある。

  • 現時点では、生成AIは万能ではない。利用規約は必ず専門家に確認してもらおう!

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