EU AI Act対応に必要なドキュメント一覧とその作成方法
- REIKO TOYOSHIMA
- 10月21日
- 読了時間: 4分
EU AI Actの背景と求められる対応、企業・組織が直面する課題
2024年に欧州連合(EU)で可決された「EU AI Act(欧州(EU)AI規制法)」は、AIを安全かつ公正に利用するための法律です。この法律では、AIシステムのリスクに応じて企業や組織が守るべきルールが定められています。特にEU市場にサービスを提供している企業は、法令に沿った対応が求められ、違反すれば高額な罰則が科される可能性もあります。
この記事では、EU AI Actに対応するために必要なドキュメント(文書)とその作成方法について、法務部門や情報システム部門などの実務担当者、または中小企業の経営者といった、専門的な知識がない方にも分かりやすく解説していきます。
EU AI Act対応に必要なドキュメント一覧とその概要
リスク分類に応じた文書の種類と整理方法
EU AI Actでは、AIシステムのリスクレベルに応じて求められる文書が変わってきます。主に次の4つのリスクカテゴリがあります:
最小リスク
限定リスク
高リスク
許容されないリスク(原則禁止)
このうち「高リスク」に分類されるAIは、多くの義務を伴い、多くの文書の提出・管理が必要です。まずは、自社のAIシステムがどのリスクに該当するのかを見極めることが重要です。
必須となる文書の全体像(高リスクAIシステムを中心に)
高リスクAIに関しては、以下のような文書の作成が義務づけられています:
技術文書(Technical Documentation)
リスクマネジメントファイル
データガバナンス文書
ユーザーマニュアル・利用上の注意
モニタリングおよび報告体制の記録
これらの文書は、AIの安全性や説明責任、透明性を確保するために必要不可欠です。
各ドキュメントの目的と作成ポイント
技術文書(Technical Documentation)の作成方法
技術文書には、AIシステムの設計、目的、機能、使用されるアルゴリズム、トレーニングデータの内容などを詳しく記載します。エンジニアだけでなく、法務や企画の部門とも連携して、全体像が分かるように構成することが重要です。
リスクマネジメントファイルとモニタリング手順書
リスクマネジメントファイルには、AIを使うことで起こり得るリスクとその対処法をまとめます。また、運用中に問題が起きていないかを継続的に監視するためのモニタリング手順も必要です。これにより、早期に異常を発見して対応できます。
データガバナンス文書と公平性・説明責任の確保
AIに使用するデータが偏っていないか、差別的でないかを確認し、その管理方法をまとめる文書です。データの取得方法、整備内容、チェック体制を記録しておくことで、説明責任を果たすことができます。
ユーザーマニュアル・利用上の注意 ユーザーマニュアルには、AIシステムの機能や使用方法、想定されるリスク、使用環境、そして連絡先などを分かりやすく記載する必要があります。特に高リスクAIの場合、性能の限界や誤作動時の対処方法も明示することが重要です。非専門家にも理解できる言葉で書き、必要に応じて多言語化も検討しましょう。
ドキュメント作成の進め方:専門家に依頼すべきケース
ドキュメント作成は初めてだと難しく感じるかもしれませんが、テンプレートを使えば一気にハードルが下がります。例えば、欧州委員会や各国の規制機関が提供するガイドラインやフォームを参考にすると良いでしょう。最初に全体の構成を決めてから、関係者と役割分担しながら進めるとスムーズです。
自社で対応が難しい場合は、専門家やコンサルタントに依頼するのも選択肢です。AI開発の法的要件に詳しい法務専門家や、AIガバナンスを得意とするコンサルタントが適しています。AIシステムが高リスクに分類される、もしくは判断がつかない場合は、早めに専門家に相談するのが安心でしょう。また、初めて法対応に取り組む企業やリソースが限られている場合も、外部の力をうまく活用することで、効率的かつ確実に対応できます。費用は内容や規模により異なりますが、事前に見積もりを取り、契約内容をしっかり確認しましょう。
EU域内での運用体制構築と継続的な文書更新の必要性
AIシステムを運用するには、社内でルールを決め、責任者を明確にする必要があります。内部監査や記録保存の仕組みを整えておけば、外部からの監査にも対応できます。
また、法律やガイドラインは今後も更新される可能性があります。定期的に文書を見直し、必要に応じて修正・追加していくことが、長期的なコンプライアンス維持につながります。
まとめと今後の動向に備えるための対応策
EU AI Actへの対応は一度きりの作業ではなく、継続的な取り組みが必要です。自社のAI活用の在り方を見直し、リスクを正しく把握しながら、必要な文書を計画的に整備していきましょう。
