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【プライバシーを守りたい女性の個人事業主向け】ネット販売をする時に氏名や住所は隠せるのか?


女性の個人事業主の方がネットで通信販売をする時、ウェブサイトに自分の氏名や住所を公表することに、不安を覚えることは珍しくありません。

 

不特定多数の人が目にするインターネット上で個人情報を公開することは、特に一人暮らしの女性にとって不安なものです。「一人暮らしなので、住所を公開するのはちょっと…」、「ストーカー被害が怖い」など、できれば、匿名でビジネスをしたい!と思う気持ちはよく分かります。

 

しかし、ネットの通信販売では、消費者に安心・安全な買い物をしてもらうよう、売り手が守らなければいけない様々な義務があります。自分の氏名や住所を隠して取引をすることは、法的に許されるのでしょうか?

 

このブログでは、プライバシーを守りながらネットで通信販売をしたい人向けに、法的な注意点と対処法について、分かりやすく解説します!

 

特定商取引法に基づく氏名・住所・電話番号の表示義務

 

ネット上での取引は、対面販売と違い、お客様はホームページなどの広告(商品の紹介ページやショッピング画面を含みます)だけを頼りに商品を選びます。事業者が、正しく情報を表示しないとトラブルに発展します。

 

これを防ぐために、特定商取引法では、通信販売を行う事業者は、消費者向けの広告において、一定の事項を表示する義務を定めています。オンラインショッピングのウェブサイトにある、「特定商取引法に基づく表示」というページは、表示が義務付けられている情報を、お客様がすぐ分かるようにまとめたものです。

 

そのなかには、事業者の氏名(名称)・住所・電話番号などを表示する義務があります(特定商取引法第11条)。

 

個人事業主の場合は、戸籍上の氏名を表示する必要があり、屋号、通称やサイト名のみの表示は認められません​。また、住所は実際に事業活動を行っている場所、電話番号は確実に連絡が取れる番号を記載しなければなりません​。

 

事業者と消費者の間で情報格差が起きやすい通信販売で、取引の責任者は誰なのかはっきりさせることは、消費者にとって重要なことなんです。

 

氏名・住所・電話番号は省略することもできる

 

もっとも、一定の条件を満たせば表示を省略することも可能です。広告内に「消費者から請求があれば遅滞なく氏名・住所・電話番号等を提供する」旨を明示し、実際に請求があった場合には速やかに書面や電子メールで情報開示できる措置を講じている場合には、氏名・住所・電話番号の表示を省略できます​。

 

この場合、「請求があった場合に情報開示できる措置」として、お問合せフォームなど、お客様がいつでも請求できる窓口を設けなければなりません。また、請求があれば、自分の氏名、住所、電話番号は公表しないといけないので、「完全匿名」でビジネスをすることは不可能です。

 

もし、自分の氏名、住所、電話番号をホームページ上で公表したくない場合は、「特定商取引法に基づく表示」ページに「※ご請求時には販売者の氏名・住所・電話番号を遅滞なく開示いたします」と記載して、問い合わせフォームに誘導するとよいでしょう。

 

でも、怪しいサイトと思われるかも…

 

条件を満たせば、氏名、住所、電話番号は非表示にできることはお分かりいただけたと思います。

 

しかし、お客様が、氏名、住所、電話番号が一切公開されていないサイトを見た時、どのような印象を持つでしょうか?「もしかしたら怪しい事業者?購入をやめようかな…」と思われる可能性もゼロではありません。

 

他に方法はないのでしょうか?

 

屋号を商号登記すれば、氏名の代わりに表示できる

 

特定商取引法第11号では、氏名(名称)・住所・電話番号などを表示する義務を定めています。ここで記載されている名称とは、商号として法務局に登記した屋号(ショップ名など)です。屋号と勘違いされている人もいますが、前述のとおり、(登記していない)屋号を表示するのでは、特定商取引法の義務は果たせません。

 

そこで、「氏名を開示せずに、事業者としての信用も保ちたい」という方は、法務局で、自分の屋号を商号登記する方法があります。商号登記された屋号であれば、特定商取引法に基づく表示でも戸籍名に代えて記載することが認められます。

 

バーチャルオフィスの住所・電話番号を利用する

 

次に住所と電話番号はどうすればよいでしょうか?実は、バーチャルオフィスやプラットフォーム(BASEやSTORESなど)の住所や電話番号を、特定商取引法に基づく表示に使うことが認められています。

 

ただし、以下の条件を満たす必要があります。

 

・ 個人事業者がプラットフォーム事業者の住所及び電話番号を表示する場合、当該個人事業者の通信販売に係る取引の活動が、当該プラットフォーム事業者の提供するプラットフォーム上で行われること
・ 個人事業者がプラットフォーム事業者又はバーチャルオフィスの住所及び電話番号を表示する場合、当該プラットフォーム事業者又は当該バーチャルオフィスの住所及び電話番号が、当該個人事業者が通信販売に係る取引を行う際の連絡先としての機能を果たすことについて、当該個人事業者と当該プラットフォーム事業者又は当該バーチャルオフィス運営事業者との間で合意がなされていること
・ 個人事業者がプラットフォーム事業者又はバーチャルオフィスの住所及び電話番号を表示する場合、当該プラットフォーム事業者又は当該バーチャルオフィス運営事業者は、当該個人事業者の現住所及び本人名義の電話番号を把握しており、当該プラットフォーム事業者又は当該バーチャルオフィス運営事業者と当該個人事業者との間で確実に連絡が取れる状態となっていること
(消費者庁 「特定商取引法ガイド」より抜粋)

 

つまり、バーチャルオフィス・プラットフォーム側が、事業者がバーチャルオフィス・プラットフォームの住所と電話番号を通信販売の連絡先として使うことを合意・協力していて、いざという時に、確実に連絡が取れる状態であることが前提です。

 

バーチャルオフィスを利用する場合は、実際には「連絡が取れない」という状況になってはいけません。郵便も転送されず電話も繋がらないような場合は、特定商取引法の表示義務を果たしていることにはなりません。

 

バーチャルオフィスは、月額1,000円以下の格安サービスもあります。ただし、業者を選ぶ際は、利用した時に特定商取引法の表示義務を満たせるのか、しっかり確認することが重要です。実際に、バーチャルオフィスが通信販売詐欺に悪用されるケースも少なくないため、適法に運用しないとお客様の信頼を失い、また行政の処分対象にもなりかねません。

 

プラットフォームの中には、特定商取引法に基づく表示に、事業者の住所・電話を非表示とする仕組みを備えたサービスもありますので、活用を検討してみる価値はあります。ただし、氏名の非表示は不可とされるケースがありますので、利用規約をよく確認してください。

 

個人情報保護法にも対応が必要!

 

通信販売では顧客の氏名・住所・連絡先といった個人情報を扱うため、個人情報保護法上の義務にも注意が必要です。

 

個人情報保護法では、お客様の個人情報を取り扱う事業者は、お客様からの請求があった場合、個人情報(保有個人データ)の開示、訂正、利用停止などに対応しなければなりません。そして、事業者は氏名(名称)および住所等の事項を本人が知り得る状態(ウェブサイトでの公表など)にしておく義務があります。電話番号に関して個人情報保護法上は直接の表示義務はありません。

 

また、苦情の申し出などがあった場合に、迅速かつ適切に対応できる体制を作っておく(お問合せ窓口)義務もあります。

 

簡単に言えば、お客様から自分の個人情報の開示や削除などの請求、お問合せや、苦情、相談には対応しなければならず、そのためにお問合せ先を表示する義務がある、ということです。

 

通常は、まずプライバシーポリシーを用意し、事業者の氏名、住所、メールアドレスなどを明記して、ウェブサイトに掲載することで、この義務を果たすことになります。

 

ただし、個人情報の開示請求における「本人が知り得る状態」とは、お客様からの請求があった際に、遅滞なく開示することも含まれています。

 

「プライバシーポリシーに自分の氏名や住所を載せたくない!」という方は、下記のように、お問合せフォームに誘導すれば良いでしょう。

 

  • 個人情報の開示等の請求の具体的な方法については、本プライバシーポリシーに記載のお問い合わせフォームからお問い合わせください。


  • 本サービスに対するご意見、ご質問、苦情のお申出その他利用者情報の取扱いに関するお問い合わせは、下記のお問合せフォームからお問い合わせください。

 

つまり、特定商取引法に基づく表示とは別に、プライバシーポリシーをウェブサイト上で誰でも閲覧できるよう掲示しておくことは、実務上の義務でもあるんです。

 

プライバシーを守りつつ合法的に通販を行うための具体的アドバイス

 

まとめると、女性の個人事業主が安心してネット通信販売を行うために、以下の対策が考えられます。

 

  1. 「特定商取引法に基づく表記」ページに、氏名・住所・電話番号を直接記載せず「ご請求頂いた場合、遅滞なく開示いたします」との但し書きを明示しましょう。請求があれば迅速に本人へ氏名・住所・電話を通知すること!


  2. 商号登記した屋号、バーチャルオフィスの住所と電話番号を明示する。バーチャルオフィスを契約する際は、「特定商取引法に基づく表示の連絡先として利用したい」旨を伝え、その住所・電話を通じて、返品やクレームを含めて、お客様からの連絡を確実に受け取れるようにしましょう!

 

完全匿名はダメ!

 

いかがでしたでしょうか?このような対策によって、お客様への信頼を損なわず、プライバシーと身の安全を守りながらビジネスを始めることも可能です。

 

ただし、お客様から請求があった場合は、できるだけ早く、自分の氏名・住所・電話番号を通知しなければなりません。また、商品を実際に配送する際は、実際に事業を行っている住所・連絡先を使用する必要があります。

 

あくまで「一般に公表すること」をしないで済むのであって、お客様とのやり取りでは、住所や連絡先を隠すことはできません。プライバシーの保護と、事業者としての開示義務の両方を守りながら、お客様と安心・安全な取引を心掛けましょう!

 

この記事のまとめ

  • ネット販売をする際は、事業者は特定商取引法を守る義務があり、原則として、ウェブサイトに氏名・住所・電話番号を表示しなければならない。

  • ただし、プライバシーを守る観点から、一定の条件のもと、氏名・住所・電話番号を非表示にすることができる。また、商号登記やバーチャルオフィスを活用する方法もあり。

  • 非表示にできるのは、あくまでウェブサイトでの一般公開。お客様からの請求、実際の商品の取引では、きちんと自分の氏名や連絡先を開示しましょう!


参考

特定商取引法ガイド(通信販売)-消費者庁

個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)-個人情報保護委員会

「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン」に関するQ&A -個人情報保護委員会

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