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行政書士が解説!本の表紙をSNSに投稿するのは著作権違反?

SNSやブログで本を紹介する「書評活動」。インターネットを通じて個人 でも気軽に発信できる時代になりました。全国の書評ブロガーや、一般のInstagramユーザーが、自身の読んだ本を紹介し、本好きのフォロワーとの交流を楽しめるようになりました。
そんな中でよく見かけるのが、「本の表紙を撮影してSNSに投稿する」という行為。しかし、この表紙画像の投稿について、「これって著作権的に問題ないの?」と疑問を抱く方も少なくありません。
原則として、本の表紙を撮影してSNSに投稿する行為は著作権法上の複製になり、著作権侵害となります。
この記事では、行政書士の立場から「本の表紙画像をSNSにアップすることは著作権違反なのか?」という疑問について、法律的な観点からわかりやすく解説します。特に書評ブロガーや出版物を紹介するSNSユーザーの方にとって、必ず知っておきたい内容になっています!
著作権法における「複製権」、「公衆送信権」とは?違反するとどうなる?
まず、著作権法の基本的な考え方から整理しておきましょう。
著作権とは、著作物を創作した人が持つ「無断で複製・配布・展示・公表されない権利」のことです。著作物には、小説・音楽・映像・イラストなど様々な種類があります。
本の表紙には、装丁デザイン・イラスト・写真・文字の配置など、著作性を持つ要素が含まれます。「単なるタイトルと著者名が書いてあるだけの表紙なら著作物ではないのでは?」という疑問もありますが、実際にはほとんどの書籍が、独自のビジュアルデザインや写真、構成によって著 作性があるとされています。そのため、基本的には「書籍の表紙は著作物である」と考えるのが妥当です。
だから、表紙そのものも「著作物」に該当し、本の表紙画像(書影と言います)を無断で撮影・投稿することは著作権の侵害となります。
より具体的に説明すると、著作権の中の、「複製権」や「公衆送信権」を侵害する可能性があるのです。
■「複製権」とは
これは、著作物をコピーする権利のことです。たとえば、本の表紙を写真に撮る、スキャンする、画像として保存するといった行為はすべて「複製」にあたります。そして、この「複製」をしていいかどうかを決めるのは、著作権者だけです(ただし、購入の記念に撮影して自分のスマホに入れておくなど、「私的利用」の範囲にとどまる場合は問題になり にくいとされています)。
■「公衆送信権」とは
これは、インターネットなどを通じて、著作物を不特定多数の人に見られる状態にする権利のことです。つまり、撮影した本の表紙画像をSNSやブログにアップする行為は、この「公衆送信」に該当します。そして、これもまた、著作権者の許可が必要なのです。
つまり、SNSに本の表紙を投稿すると、著作権法上の複製権や公衆送信権の侵害に該当する可能性があり、最悪で3年以下の懲役、または300万円以下の罰金になることもあり得ます。無断使用することで、法律上のトラブルに発展するリスクがあることは理解しておきましょう。
ここで、「だけど、皆、書影の投稿をアップしているよね?」と思うかもしれません。実際に、Instagramを開けば、たくさんの書影の投稿が表示されますね。
ここで一つのポイントがあります。著作権侵害は「親告罪」であるため、著作権者からの訴えがなければ、著作権法違反には問われません。ブログやInstagramで書影が多く投稿されていますが、著者や出版社が「紹介してくれてありがたい」と感じ、あえて黙認するケースも多いのが現状です。
しかしこの「黙認」はあくまで善意によるもので、著作権者が気が変われば、削除要請や損害賠償請求が行われる可能性は常に存在します。法的リスクを回避するには、やはり基本的なルールを知り、適切な対応をとることが重要です。
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「引用」や「私的使用」の誤解とその限界
著作権法には、「引用は許可不要」「私的使用は自由」といった例外規定があります。これを権利制限規定と言います。著作権を守ることはとても大切ですが、他人の著作物を全く使えないとなると、クリエイションの幅がとても狭まってしまいます。だから、権利制限規定を使って、一定程度は、他人の著作物を使えるようにしているのです。
書影をSNSで発信する時、権利制限規定が適用されるように投稿すれば、著作権の侵害を避けられます。しか し、これらを正しく理解して運用している人は少ないのが実情です。
例えば、「引用」となるように投稿する場合、以下の条件をすべて満たす必要があります。
引用の必然性がある(引用しなければ内容が成立しない)
主従関係が明確である(引用部分が主になっていない)
引用の部分とそれ以外の部分がはっきり区別されている
出典を明記している
引用の部分を改変していない
例えば、SNSで「本の表紙をパシャッと撮って、『これ読みました』だけを投稿した」ケースは、引用(書影)が主になってしまっているため、引用の範囲を超えています。よって、著作権上セーフとは認められにくいのです。
また、「私的使用」についても、家族や親しい知人の間で閲覧する範囲に限られるため、SNSやブログといった公開メディアでの使用は該当しません。
行政書士が提案する安全な対処法
著作権侵害のリスクを避けるために、行政書士として以下の方法を推奨します。
1. 出版社に許可を取る
使用したい表紙がある場合、出版社に使用許可を依頼するのが最も確実です。それぞれの出版社のウェブサイトで使用許諾について確認してみましょう。特に商業利用を想定していない個人であれば、承諾してもらえるかもしれません。
書籍を紹介する目的であり、一定の条件を満たせば、許諾の申請をしなくとも書影を利用できるとしている出版社もあります。
一方で、出版社によっては、個人の書影利用を全面的に認めていない場合もあるので、それぞれのルールを必ず確認するようにしましょう。
参考:個人の非営利ブログやSNS上で書影を利用することを許可している出版社
岩波書店
作品紹介の範囲内で表紙画像のみ利用可できる。書誌情報(書名・著者名・出版社名等)を併記。画像は無加工。紹介範囲を超える場合は、事前に確認すること。
実業之日本社
現在刊行中の出版物の書影を自由に使用可。書名・著者名・出版社名を併記。画像は無加工(自社サイト画像のダウンロードが推奨)。刊行後時間が経過したタイトルは申請が必要。
偕成社
非営利のブログ・HP等で表 紙画像を紹介目的で使用する場合、書名・著者名・画家名・翻訳者名・出版社名を明記すれば申請不要。表紙画像は公式サイトから取得可。掲載後はURLを連絡(お問い合わせフォーム経由)すること。
ミシマ社
書籍紹介の際に表紙画像利用可(書名・著者名・出版社名を近接表示し、画像をトリミング等しないことが条件)。掲載後は、Webの場合はURLを報告、紙媒体の場合は献本すること。
2. 代替手段を活用する
表紙画像の代わりに以下の方法を活用することも可能です。
出版社の公式サイトや書籍販売ページへのリンクを掲載する(ハイパーリンク、インラインリンク(※)を張る行為は、原則、著作権の侵害にはなりません。)
書籍タイトル・著者名などの文字情報だけで紹介する
書影以外のイラストや画像を使用してイメージを表現する(表紙をそのままトレースすることは、著作権法の複製権を侵害する可能性があるため注意)
※インラインリンク…リンク元のページに、リンク先の画像が直接表示される方法。リツイートもインラインリンクに含まれる。
3. 「版元ドットコム」を活用する
「版元ドットコム」をご存じですか?「版元ドットコム」は、日本の出版業界が運営する書籍データベースです。ここでは多くの書籍の書影が掲載されており、中には引用利用が許容されているケースもあります。ただ、全ての書籍の書影が利用可能となっているわけではなく、以下のようなルールが紹介されています。
表示画像下に【利用可】の表示があるものは出版社が再利用を許諾しているのでお使いください。
(中略)
また、【利用不可】の表示がある書影・書誌は、版元ドットコムサイトからの利用はできません。
発行出版社に許諾のお問い合わせが必要です。
(版元ドットコムのウェブサイト「書影・書誌の利用について」のページより抜粋)
筆者が調べたところでは、版元ドットコムでは現在多くの書影が利用不可となっている印象でしたが、それでも調べてみる価値はあるでしょう。
適法な発信がもたらす3つのメリット
「そうは言っても、みんなやっているから問題なし」、「私のSNSアカウントを出版社が見るわけがない」と思うかもしれません。しかし適法に発信することには、「信頼」と「安心」というメリットがあります。
1. 読者・フォロワーの信頼を得られる
著作権に配慮したコンテンツは、「この人は信頼できる」と感じさせる効果があります。情報リテラシーが高い現代の読者・フォロワーに対して、コンプライアンスを意識した投稿は、むしろ好感度を高めるのではないでしょうか?
2. 著者・出版社との関係構築に繋がる
特に書評ブログの場合、ルールを守ることで、著者や出版社からの信頼を得ることができます。今後、書評を読んだ出版社から、書籍紹介の機会やコラボ依頼が舞い込むかもしれません。
3. 自分の発信活動を守る
著作権を侵害した状態で発信を続けることには常に法的な不安が残ります。適法な方法で発信をすれば、トラブルに巻き込まれるリスクが減ることで、安心して発信活動を継続できるでしょう。
著作権を守りながら、書評を楽しもう
本の表紙をSNSで投稿する行為は、著作権の観点から見ればリスクがある行動です。実際に摘発されることは稀でも、訴えられる可能性はゼロではありません。
最も安全なのは、出版社に許可を得ること。また、「版元ドットコム」などの公的データベースを活用し、利用が許可されている書影を使うこと。そうすれば、著作権のリスクを減らしながら書評活動を楽しむことができます。
もし、著作権の扱いや具体的な対応について不安がある場合は、弁護士や行政書士へ相談することをお勧めします。情報発信者として法令順守を意識することは、読者にも、著者にも、そして自分自身にも利益をもたらすということを、ぜひ覚えておいてくださいね!
この記事のまとめ
本の表紙は著作物に該当し、無断でSNSに投稿すると「複製権」や「公衆送信権」の侵害となる可能性がある。
著作権侵害のリスクを避けるため、出版社に利用許可をもらったり、他の手段を考えたりする方が無難である。
著作権の扱いについて不安がある場合は、専門家に相 談しよう!